
『なみだ研究所へようこそ!―サイコセラピスト探偵波田煌子』鯨 統一郎
祥伝社 2004-01
臨床心理士の松本君はメンタルクリニック”なみだ研究所”で働き始める。伝説的セラピストであるはずの所長波田煌子は、少女のような容貌と貧相な知識でとんちんかんなセラピーばかり行っている。学問と論理を元に真面目にセラピーに励む松本君だったが、クライエントの悩みを次々解決していくのは突然の閃きを持つ波田煌子の方である。
セラピーを題材にした連作短編集。研究所で行われる勉強会では数々の学説が挙げられクライエントに実践されるが、最後は必ず波田煌子の意外な発想で悩みがわかり解決していく。波田煌子の目に涙が浮かべば、それは解決の証。
ナンセンスユーモアとでも言おうか・・始めのうちは退屈に感じたが最終的にはそれなりに楽しめた。良い意味でくだらない作品。頭も心も時間も使いたくない時には良いのかも。
読了日:2008.9.11
★☆☆☆☆
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エンブリオとは受精後八週までの胎児のこと。産婦人科医岸川は、自身の病院にてエンブリオを培養しての臓器移植、男性の腹腔へ受精卵を忍ばせる妊娠実験など倫理を無視した生殖医療の先端技術へ挑戦し続けている。国際学会で彼の才能に目をつけたアメリカの大企業が技術の横取りを企むが、岸川は超然と彼らを迎え撃つ。
『臓器農場』以上に医療と倫理を問う作品。主人公の岸川は、患者を救いたいという熱い想いを持ち、不妊治療に苦しんできた夫婦の最後の砦ともなる”慕われる名医”である。非倫理的な彼の治療に患者は時に涙ぐみながらも感謝を口にする。その一方で、研究と病院のためには胎児の流用や人殺しも辞さない。とにかく倫理観のみが欠落した天才医師という設定である。
岸川の台詞に「つまり、この世の摂理や慣習、法律は、日本では胎内まではおよんでいないということだ」というのがある。岸川は、自分の行いは非倫理的であっても日本の法律に反してはおらず、倫理との葛藤は医療の宿命だと考えている。また、胎児を人と見なさないという大前提があるが故に、恐ろしい実験にも疑問を持つことなく生殖医療の研究に信念を持って取り組んでいるのだ。
一般人の自分には、岸川の行為は限りなく恐ろしく映る。しかし、人体にメスを入れるという医療行為が受け入れられた時から、このような研究も起こるべくして起こったとも言えるだろう。この作品は小説の形を取った作者の医療技術追求への警告だ。
作中に、余命僅かな長男のために母親が妊娠中の胎児を人工中絶してその心臓を移植するというエピソードがある。夫婦はまだ見ぬ子よりも今まで育ててきた長男を選び、進んで子供を一人殺すのだ。長男は元気に退院していき、夫婦もつらさを抱えながらも満足する。この医療行為が正しいのか間違っているのか当事者でしか何も言えないと思った。選択肢ができてしまったのだから。
最後に解説にて京大教授福島氏が述べられている言葉を引用。
「今、人間の知恵が問われている。そろそろ踏みとどまる限界を見定めるべきではなかろうか?」
読了日:2008.9.10
★★★★★
不本意ながら奈良の女子高に二学期限定の臨時教師として赴任した主人公。ある時鹿に、運び番として”目”を京都から持ってくるよう話しかけられる。(すいません、適当)
余程で無ければ小説には一気に入り込める自分だが、この作品は、平易な文章ながら全ての描写が回りくどくて読み進むのがつらかった・・。万葉集や歴史など題材は好みのはずなのに残念。自分の世界を色々と盛り込みたい意図があるのだろうが、軸が無いので散文的な印象。不要な箇所を削って10分の1位にまとめたらそれなりの娯楽小説だったかもしれない。
読了日:2008.9.9
☆☆☆☆☆
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『迷走人事』高杉 良
角川グループパブリッシング 2008-04-25
大手アパレルメーカーで後継者問題が浮上。ワンマン社長は息子である専務を指名するが、息子は辞退し古株の副社長の後押しに回ってしまう。結局副社長が社長に昇任するが、新規事業の雲行きが怪しくなっていく。
腕一本でのし上がってきたワンマン社長と、お人よしの二代目、番頭としては有能でもトップを率いる器は無い役員。オーナー企業の後継者問題で大企業が揺れる様を描いた作品。
オーナー以上に優秀な人材が育たず、二代目は父の苦労を知らず・・というオーナー企業のジレンマはよくわかるが、広報レディを主役に据えたことで無駄な恋愛話にかなり力が入っており、小説自体も迷走している気がした。高杉良の作品で女性が主人公というのは珍しいが、キャリア女性の視点というよりは専務の愛人の視点という印象なのが残念。
読了日:2008.9.8
★★☆☆☆
荒川の高層マンションにおいて中年の男女、老女の遺体が室内で、若い男が転落死という形で4人の遺体が発見される。家族のように見えた4人だったが、居住者であるはずの家族の生存が確認される。死んだ者たちは何者で、犯人は一体誰なのか?
宮部さんとは何冊かがっかりさせられた後遠ざかっていたので、読むのはかなり久しぶり。これは結構良い作品だった。
希薄な人間関係、家族の葛藤、些細なことから起こす愚かな行動。高層マンションでの隣人の顔すらわからないという暮らし、濃密な家族関係からの逃避や意地の張り合い、傍観者の勝手な言動等、事件を軸に様々な人間と生活が浮き彫りにされており、ミステリーというよりは人間ドラマの趣き。その辺り、宮部みゆきの観察眼はさすがだと思う。
ドラマティックに感じる箇所は無い。嫁姑関係は当然のこと、蒸発や家庭の崩壊、虚栄心、無関心、複数人殺人ですら驚くことなくすんなりと受け入れてしまうところに逆に問題があるだろう。現代における人間関係を考えさせられる作品。
読了日:2008.9.6
★★★★☆
『すべてのものをひとつの夜が待つ』篠田 真由美
光文社 2008-08-07
莫大な遺産相続のために、満喜家の血を引く若者とそのパートナー5組が集められた。当主の満喜寿一郎は、孤島にある古びた洋館の中で巨大ダイヤを探し出した者が相続の権利を得られると伝える。外界と遮断された洋館の中で宝探しをする10人だったが、次々と殺人事件が起きる。犯人は自分たちの中にいるのか、それとも館には他に誰かがいるのか・・。
「ゴシック・ロマンス」と銘打ってあり、あらすじを見て久しぶりに本格的なミステリが読めるのかと書店で手に取った時に胸が躍った。
絶海の孤島で洋館に閉じ込められ、次々と不可解な殺人事件が起きるというのはセオリー通りで良い。・・・しかし!登場人物の衣装はジャージだし、若者言葉だし、途中から相続とかダイヤ探しはどこかへ飛んでいってしまったし、おまけに百合だの半陰陽だの勘弁して欲しい・・。どこの若者が書いているのかと思いきや著者は結構良いお年。不可解だ。
イヤ、特別ひどい作品では無いのだけど、期待した分勝手にがっかりしたのだ。それでもつい一気読みしてしまったが。消化不良で何か骨太なミステリを読まないと立ち直れないかも。
読了日:2008.9.5
★★☆☆☆
資産家蜷川の孫娘が惨殺された。蜷川は犯人を殺害した者へ10億円の報奨金を支払うと公表。SPの銘茢は4人の警察官と共に犯人を無事護送するという任務を負う。「人間の屑」の盾となり、命を懸けて守る必要はあるのか?襲い来る刺客を相手にしながら、仲間の中でも衝突が起きていく。
幼い少女を二人も惨殺し、反省も無い犯人の為に何故命を懸けなければいけないのか?主人公銘茢自身葛藤を抱えながらも任務を全うすべく護衛を続ける。最初はぶつ切りの文体に抵抗を感じたが、話が進むにつれてのめり込んでしまい気にならなくなった。
色々と有り得ない設定もあるのだが、銘茢のSPたらんとする姿に惹かれていき一気に読める。銘茢の銃を奪って殺してやりたくなるような犯人の憎憎しさがまた感情移入を呼び込む。
ちなみに作者は「BE-BOP-HIGHSCHOOL 」を描いた漫画家。本を出す漫画家は多いが、今後は文筆一本でいくとは驚きだ。
読了日:2008.9.5
★★★☆☆

『絵てがみブック』杉浦 さやか
角川書店 2002-04
イラストレーター杉浦さやかさんのポップで可愛い絵てがみのススメ。
よくある水彩画の絵葉書ではなく、広範囲にカード、タグ、絵日記などを取り上げて「こんな風に作ってみたら?」という提案型イラストブック。 とにかく可愛い!PC三昧もいいけどたまにはこんな手作りをしたい。
読了日:2008.9.2
★★★★★
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『押入れのちよ』荻原 浩
新潮社 2006-05-19
引越し先の格安マンションの部屋には明治生まれの女の子の霊が住んでいた!恵太は驚きながらもちよを受け入れ成仏させてあげたいと考えるようになる。表題作『押入れのちよ』他9編の短編集。
ホラーというよりブラックコメディと言った方が良いだろうか?恐怖や切なさの中にも能天気な明るさがある荻原ワールドだ。
個人的に長編好きなこともあり、どの作品もこじんまりとしていてやや物足りなかった。若干やっつけ感が感じられる作品も・・。『押入れのちよ』だけでシリーズにできそうだし、これは続きが読んでみたい。
読了日:2008.9.3
★★★☆☆






