ruruの読書ノート
ビジネスからコミックまで基本あっさりたまに熱く記す個人の読書感想&備忘録
『ハルモニア』篠田 節子
2008年09月15日 (月) 00:01 | 編集

ハルモニア
『ハルモニア』篠田 節子
マガジンハウス 1997-12

チェリストの東野は福祉施設で入居者の由希にチェロを教えるようになる。情緒障害と引き換えに天才的な音楽性を得ていた由希だが、演奏者の模倣に留まり自分の音は出せない。東野は由希の才能に嫉妬と羨望を抱きながら、彼女の才能を愛していく。

 はっきり言って美しくない作品。初期の段階で筋がわかってしまうし、心温まるわけでも切なく哀しいわけでもなく、東野の中途半端な音の追求と障害の特異性ばかりがクローズアップされていてどうも気持ちよく読めない。

 何となく描きたい世界はわかるのだが、折角音楽という素晴らしい題材を使うのだからもっと品のある作品にして欲しかった。

読了日:2008.9.13
★☆☆☆☆

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『なみだ研究所へようこそ!―サイコセラピスト探偵波田煌子』鯨 統一郎
2008年09月11日 (木) 22:25 | 編集
なみだ研究所へようこそ!―サイコセラピスト探偵波田煌子 (祥伝社文庫)
『なみだ研究所へようこそ!―サイコセラピスト探偵波田煌子』鯨 統一郎
祥伝社 2004-01

臨床心理士の松本君はメンタルクリニック”なみだ研究所”で働き始める。伝説的セラピストであるはずの所長波田煌子は、少女のような容貌と貧相な知識でとんちんかんなセラピーばかり行っている。学問と論理を元に真面目にセラピーに励む松本君だったが、クライエントの悩みを次々解決していくのは突然の閃きを持つ波田煌子の方である。

 セラピーを題材にした連作短編集。研究所で行われる勉強会では数々の学説が挙げられクライエントに実践されるが、最後は必ず波田煌子の意外な発想で悩みがわかり解決していく。波田煌子の目に涙が浮かべば、それは解決の証。

 ナンセンスユーモアとでも言おうか・・始めのうちは退屈に感じたが最終的にはそれなりに楽しめた。良い意味でくだらない作品。頭も心も時間も使いたくない時には良いのかも。

読了日:2008.9.11
★☆☆☆☆

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『エンブリオ』帚木 蓬生
2008年09月10日 (水) 23:57 | 編集

エンブリオ
『エンブリオ』帚木 蓬生
集英社 2002-07

エンブリオとは受精後八週までの胎児のこと。産婦人科医岸川は、自身の病院にてエンブリオを培養しての臓器移植、男性の腹腔へ受精卵を忍ばせる妊娠実験など倫理を無視した生殖医療の先端技術へ挑戦し続けている。国際学会で彼の才能に目をつけたアメリカの大企業が技術の横取りを企むが、岸川は超然と彼らを迎え撃つ。

 『臓器農場』以上に医療と倫理を問う作品。主人公の岸川は、患者を救いたいという熱い想いを持ち、不妊治療に苦しんできた夫婦の最後の砦ともなる”慕われる名医”である。非倫理的な彼の治療に患者は時に涙ぐみながらも感謝を口にする。その一方で、研究と病院のためには胎児の流用や人殺しも辞さない。とにかく倫理観のみが欠落した天才医師という設定である。

 岸川の台詞に「つまり、この世の摂理や慣習、法律は、日本では胎内まではおよんでいないということだ」というのがある。岸川は、自分の行いは非倫理的であっても日本の法律に反してはおらず、倫理との葛藤は医療の宿命だと考えている。また、胎児を人と見なさないという大前提があるが故に、恐ろしい実験にも疑問を持つことなく生殖医療の研究に信念を持って取り組んでいるのだ。

 一般人の自分には、岸川の行為は限りなく恐ろしく映る。しかし、人体にメスを入れるという医療行為が受け入れられた時から、このような研究も起こるべくして起こったとも言えるだろう。この作品は小説の形を取った作者の医療技術追求への警告だ。

 作中に、余命僅かな長男のために母親が妊娠中の胎児を人工中絶してその心臓を移植するというエピソードがある。夫婦はまだ見ぬ子よりも今まで育ててきた長男を選び、進んで子供を一人殺すのだ。長男は元気に退院していき、夫婦もつらさを抱えながらも満足する。この医療行為が正しいのか間違っているのか当事者でしか何も言えないと思った。選択肢ができてしまったのだから。

 最後に解説にて京大教授福島氏が述べられている言葉を引用。
 「今、人間の知恵が問われている。そろそろ踏みとどまる限界を見定めるべきではなかろうか?」

読了日:2008.9.10
★★★★★

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『鹿男あをによし』万城目 学
2008年09月09日 (火) 23:18 | 編集

鹿男あをによし
『鹿男あをによし』万城目 学
幻冬舎 2007-04

不本意ながら奈良の女子高に二学期限定の臨時教師として赴任した主人公。ある時鹿に、運び番として”目”を京都から持ってくるよう話しかけられる。(すいません、適当)

 余程で無ければ小説には一気に入り込める自分だが、この作品は、平易な文章ながら全ての描写が回りくどくて読み進むのがつらかった・・。万葉集や歴史など題材は好みのはずなのに残念。自分の世界を色々と盛り込みたい意図があるのだろうが、軸が無いので散文的な印象。不要な箇所を削って10分の1位にまとめたらそれなりの娯楽小説だったかもしれない。

読了日:2008.9.9
☆☆☆☆☆

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『迷走人事』高杉 良
2008年09月08日 (月) 23:57 | 編集

迷走人事 (角川文庫 た 13-16)
『迷走人事』高杉 良
角川グループパブリッシング 2008-04-25

大手アパレルメーカーで後継者問題が浮上。ワンマン社長は息子である専務を指名するが、息子は辞退し古株の副社長の後押しに回ってしまう。結局副社長が社長に昇任するが、新規事業の雲行きが怪しくなっていく。

 腕一本でのし上がってきたワンマン社長と、お人よしの二代目、番頭としては有能でもトップを率いる器は無い役員。オーナー企業の後継者問題で大企業が揺れる様を描いた作品。

 オーナー以上に優秀な人材が育たず、二代目は父の苦労を知らず・・というオーナー企業のジレンマはよくわかるが、広報レディを主役に据えたことで無駄な恋愛話にかなり力が入っており、小説自体も迷走している気がした。高杉良の作品で女性が主人公というのは珍しいが、キャリア女性の視点というよりは専務の愛人の視点という印象なのが残念。

読了日:2008.9.8
★★☆☆☆


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『押入れのちよ』荻原 浩
2008年09月03日 (水) 22:54 | 編集
押入れのちよ
『押入れのちよ』荻原 浩
新潮社 2006-05-19

引越し先の格安マンションの部屋には明治生まれの女の子の霊が住んでいた!恵太は驚きながらもちよを受け入れ成仏させてあげたいと考えるようになる。表題作『押入れのちよ』他9編の短編集。

  ホラーというよりブラックコメディと言った方が良いだろうか?恐怖や切なさの中にも能天気な明るさがある荻原ワールドだ。

 個人的に長編好きなこともあり、どの作品もこじんまりとしていてやや物足りなかった。若干やっつけ感が感じられる作品も・・。『押入れのちよ』だけでシリーズにできそうだし、これは続きが読んでみたい。

読了日:2008.9.3
★★★☆☆

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『四つの嘘 』大石 静
2008年08月08日 (金) 00:12 | 編集
四つの嘘 (幻冬舎文庫 お 20-3)
『四つの嘘 』
大石 静
幻冬舎 2008-06

男を求めることで生きている実感を感じる詩文、専業主婦として地味に暮らす満希子、独身のまま医師として仕事に生きるネリ、初恋相手の河野に似た夫とニューヨークで暮らす美波。エスカレーター式の私立女子高で同級生だった4人は、その後全く異なる人生を歩んでいた。41歳になり、美波が詩文の元夫である河野と共にニューヨークで事故死したことを発端にそれぞれの過去と現在が語られていく。女性が描く女の世界で、登場人物の感情の流れなどにはリアリティがあり面白く読めた。ただ、男と性に重点が置かれており、個人的な好みから若干外れている。女の人生ってそんなに男中心?誰もが夫や家庭への想いが希薄なところに反感も感じる。女性文学的ではあるが微妙な読後感・・。

読了日:2008.8.7
★★★☆☆


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『三たびの海峡』帚木 蓬生
2008年07月21日 (月) 19:32 | 編集
三たびの海峡 (新潮文庫)
『三たびの海峡』
帚木 蓬生
新潮社 1995-07

釜山の実業家である主人公河時根は、旧知の同胞からの手紙を受け取り日本へ向かう。大韓海峡を渡るのは生涯3度目のことである。1度目は戦時下炭鉱で働かされるための強制連行、2度目は終戦後愛する日本人女性を連れての帰郷・・それ以来日本を拒否しながら半世紀を生きてきた。しかし、当時自分たちを強制連行した男が市長として炭鉱跡にショッピングセンターを誘致する計画を立てていることを手紙で知った主人公は3度目かつ最後の渡峡を決意したのだった。戦時下の日本の支配、過酷で屈辱的な炭鉱での労働の日々、同胞同士の信頼と裏切り・・つらい思い出の地を巡る現代と半世紀前の出来事が交差しながら物語は進む。読み応えのある素晴らしい作品だった。帚木さんのはずれの無さに驚くほどだ。もっとこういうテーマの作品が世に出るべきだと思う。物語としては★5つの出来栄えだと思うが、主人公の憎しみが日本より裏切り者の同胞に向いてクローズアップされていたり、やけにいい日本人が登場したり・・・反日になりすぎないよう意図的にまとめてあるように感じたので−1とした。


読了日:2008.7.21
★★★★☆


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『呼人』野沢 尚
2008年07月20日 (日) 23:46 | 編集
呼人 (講談社文庫)
『呼人』
野沢 尚
講談社 2002-07

1985年呼人は友達の厚介、潤と秘密基地で遊び、同級生の小春に思いを寄せる普通の12歳の少年だった。しかし、周りの人間たちが大人になり別の道を進み始めても、呼人はずっと12歳のまま体の成長が止まってしまう。自分の出生の秘密を追いながら、永遠の12歳を生き続ける少年の2010年までが描かれる。成長が止まってしまった日本経済を呼人になぞらせたり社会情勢と絡み合いながら話が進みノンフィクションとフィクションが混在した場面も多い。呼人の出生の秘密や結末などドラマ的すぎてやや食傷気味だがさすがの野沢尚らしくうまくまとめてあり単純に面白く読めた。

読了日:2008.7.20
★★★☆☆


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『フェイク 』楡 周平
2008年07月15日 (火) 22:24 | 編集
フェイク (角川文庫)
『フェイク 』
楡 周平
角川書店 2006-08

三流大学を卒業後銀座の一流クラブでボーイとして働き始めた陽一は、雇われママ摩耶の運転手を務めるようになったことをきっかけにママからある"仕事"を頼まれる。大金を手にすることができた喜びもつかの間すぐに状況は一変、元の安月給ボーイに逆戻りと思いきやまたもやママから"相談"を持ちかけられ・・。銀座を舞台にした騙し騙されのコンゲーム小説。楡 周平と銀座の夜??と違和感を持ちながら読み始めたがさすがの出来栄えで面白い。「高級クラブの裏側」であったり、「愛人」「詐欺」「借金」「恐喝」等々どこにも日向の要素がないのだがコメディタッチで楽しめ後味の悪さもない。平凡な青年陽一が虚飾の世界に翻弄されながらも成長を見せる(悪い意味で?)ラストは痛快。

読了日:2008.7.15
★★★★★


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